絵を描く中で、一番楽しくもあり、難しくもあるのは人物画でしょうか。じっとポーズしているモデルや写真を見てなら描けても、目の前にいる自然な仕草を続けている群像を短時間でできるだけ正確に、その姿を捉えるのは難しいと思う人は多いはずです。
人物をある程度うまく描けるようになるには、
1、とにかく気合を入れて観察と描写の両方の質と量を上げる。言い換えればとにかく数描く。(人物デッサン、写真などの資料を使っての作画経験値を上げる)
2、知識としてのアナトミー、構造、物理的に起きる事象への理解を深める努力とその知識の応用。人物の表面より構造に意識を向けて描けているか。また、理想的な形と実際の人物とは隔たりがあり、見た通りに描いているつもりでも、描く側の見たという体験と、作品を見せられる側の体験の間にギャップがある場合。反対に、描く側の思い込みで、観察がおろそかなまま描いたものを、見せられる側が違和感を感じ取る場合などよくあります。
3,自分が理想とする人物画を描いている作家の作品を模写する。自力ではその表現を産むことができない描写法を、模写することで理解して、体得する。
おおよそ上にあげた3つのポイントが不可欠な要素だと思っています。そして、さらに4つ目のポイントを上げるとすれば、自分の描きやすい/コントロールできる画材を選び、使いこなす、また作業手順を練るのも大事な要素です。例えるなら、鉛筆デッサンで陰影をつけて一枚描くのに20分もかかるようでは、動く人物を捉えるのは難しい。でも、一気に短時間でシルエットと濃淡が表現できる画材を使ったなら、数分でその印象を捉えることができ、その後で、必要な細かいディテールを描き込んでいくと、短時間にライブ感あり、説得力もある作品になる。つまりは道具は自分の武器であり、使いこなせなければ戦場では戦えないので、常日頃から道具の手入れと扱いに慣れていないといざという時に自分のスキルが発揮できません。(と言っておきながら、外でスケッチする際に持っていったペンのインクがなくなっていた、水筆の水が足りてなかったなど、たまにあったりしますが)先日のスケッチイベントでいただいたFaber-Castellの、グレートーンのPitt Penと来春発売予定の水彩マーカーを使って、絵画教室ひまわり会の教室内での様子を描いてみました。
Pitt Penのライトグレーで、アタリを取る感じに人物を画面に配置したら、水彩マーカーのベージュレッドのペンの先端を水筆につけ、インクを水筆先に含ませ、水筆の水加減をしながら適量、適度な濃度で肌の陰影を描き、同じ要領で髪や服に色、柄、陰影の効果を与えて行きました。手順はそういう感じですが、作画中に常に意識していたことは、人体の骨格の自然な動き/ポーズ、近景、中景、遠景に配された人物の相対的比率、その人らしく似せた顔つきであり、なおかつ表情が自然で、絵を描いているシーンであることが瞬時にわかるだけの情報がそこにあること。そして描きすぎないこと、です。人物の表情、仕草、とパースの整合性が常に楽に描けるような人物画の作画のための基礎筋力を常日頃から身につけていないと、例えばコンテ描きの仕事では、突然にこの人が登場人物で、こんな格好して、こんな場所で、こんな表情をしているカットをなる速で描いてください、という注文をサクサクとこなすことができませんから、自分をパワーアップさせてくれる武器/道具の扱い訓練と思い、日々筋トレのように画力の向上に努めています。
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